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十四代酒井田柿右衛門の陶磁器はなぜ高額?人間国宝の価値
親の家の押し入れから、桐の箱に入った白い器が出てきた。蓋には墨で何か書かれているものの、崩し字で読み取れない。開けると、乳白色の肌に赤や緑で花が描かれた磁器が納まっている。もしそれが柿右衛門なら、扱いを間違えてはいけない品です。十四代酒井田柿右衛門は2001年に色絵磁器で人間国宝に認定された陶芸家で、有田で代々続く名跡の当主でした。この記事では、柿右衛門という名前が何を指すのか、濁手とは何か、そして共箱をどう扱うべきかを解説します。
柿右衛門という名跡
まず、この名前の構造から整理しておきましょう。
代々受け継がれる名前
柿右衛門は、個人の名前であると同時に、有田で受け継がれてきた名跡です。初代から数えて何代目か、という数え方をします。したがって「柿右衛門」とだけ言われても、それがいつの時代の誰を指すのかは特定できません。
査定において、何代のものかは決定的な情報になります。同じ名前でも、代によって評価はまったく異なるからです。所有者が判別する必要はありませんが、この構造だけは知っておいてください。
代を示す情報は、箱書きや銘に含まれていることが多いものです。ただし、それを読み解くには知識が要ります。「柿右衛門と書いてあった」という記憶だけでは、専門家も判断のしようがありません。書かれているものをそのまま見せる。それが最も確実な伝え方になります。
十四代という人
十四代酒井田柿右衛門は1934年に生まれ、多摩美術大学を卒業したのち、祖父と父のもとで学びました。1982年に十四代を襲名し、2001年には重要無形文化財「色絵磁器」保持者、いわゆる人間国宝に認定されています。2013年に没しました。襲名から認定までおよそ二十年。名跡を継いだあと、自分の仕事として評価を得るまでにそれだけの時間をかけたということでもあります。
人間国宝の認定は、その人の技術が国として保護すべき水準にあると判断されたことを意味します。単に人気があるという話とは別の次元に置かれるものだと考えてください。
また、手描きの磁器は制作数が限られます。一点ずつ絵付けを施すため、大量に作れるものではありませんし、晩年になれば制作の本数も減っていきます。世に出た総数がそもそも多くないという点も、評価を支える要素のひとつでしょう。この作家については、だるま3マガジンの酒井田柿右衛門とは?赤絵磁器の名工・作風・見分け方・価値を徹底解説が詳しいです。
柿右衛門様式とは
柿右衛門の作品を語るとき、しばしば「余白の美」という言い方がされます。器の面いっぱいに絵を描き込むのではなく、白い地を大きく残し、そこに花や鳥を配する。この構成が柿右衛門様式と呼ばれるものです。絵を大きく描かないぶん、配置と余白のとり方に難しさがあります。何を描くかより、どこに置くかで決まる。そういう性質の意匠です。
この様式は江戸期にヨーロッパへ輸出され、現地の窯にも影響を与えたとされます。マイセンをはじめとする欧州の磁器が日本の意匠を取り入れた背景には、こうした交流がありました。有田の器が世界の磁器史に位置を持つのは、この時代の蓄積によるものです。
つまり柿右衛門は、日本国内だけで評価される名前ではありません。海外にも探している人がいる分野であり、国内の感覚だけで価値を見積もると実勢と食い違うことがあります。相談先を選ぶ際に、扱いの幅を持つ業者かどうかを見ておく意味はここにあります。
濁手という技術
余白を見せる様式が成立するには、その白が美しくなければなりません。柿右衛門家には濁手と呼ばれる、温かみのある乳白色の素地を作る技術が伝わっています。青みがかった白ではなく、やわらかく光を含んだ白。この地があってはじめて、赤絵の色が引き立ちます。素地の色ひとつのために材料と焼成を工夫し続けてきた、ということでもあるのです。
濁手は一度途絶えかけ、後に再興されたと伝えられています。十四代はその技術を受け継ぎ、自身の作風を築きました。伝わっている技術をそのまま繰り返すのではなく、そこに自分の表現を加えたことが評価につながっています。つまり、白い部分そのものが技術の結晶だということです。「絵が少ないから簡素な器」という見方は、この分野では正確ではありません。
実際、押し入れの整理で「地味な白い器」として処分側に回されてしまう例があります。金彩をふんだんに使った華やかな器のほうが価値がありそうに見えるからでしょう。しかし見た目の華やかさと市場での評価は、必ずしも一致しません。判断は自分でせず、まとめて見てもらってください。
何を確認すべきか
続いて、実際に手元の器を確かめる手順です。
| 確認するもの | 見る場所 | 読めなくてよいか |
|---|---|---|
| 共箱の箱書き | 桐箱の蓋の表と裏 | 読めなくてよい。写真を撮る |
| 印 | 蓋裏の署名の脇 | 読めなくてよい。拡大して撮る |
| 器の銘 | 器を裏返した高台 | 読めなくてよい |
| 同封の紙 | 箱の中の栞・説明書 | そのまま一緒に持っていく |
箱を最優先で探す
和食器において、共箱と呼ばれる作者自身の箱は決定的な意味を持ちます。桐箱の蓋に作者が墨で作品名と署名を書き、印を押す。この箱書きが、その器が誰の作かを裏づける証拠になるからです。
したがって、器より先に箱のほうを探してください。順番が逆になると、見落としが起こります。押し入れ、物置、床の間の地袋。器と別の場所に保管されていることも珍しくありません。空箱だけがまとめて別の棚に置かれている、という家もあります。箱が傷んでいても、紐が切れていても捨てないでください。
共箱の有無で評価が変わるのは、和食器の世界では一般的なことです。骨董において、品物そのものと、それを裏づける情報は同じ重さを持ちます。箱がなければ「柿右衛門らしい器」であって「柿右衛門の器」だと言い切れない。そういう構造だと理解しておいてください。
箱書きは読めなくていい
蓋の墨書きは崩し字で書かれていることが多く、所有者が読めないのが普通です。読めなくて構いませんので、そのまま写真を撮ってください。蓋の表と裏、両方を撮っておくと確実です。印が押されている場合は、その部分も拡大して撮っておいてください。
箱の中に、栞や説明書が同封されている場合もあります。購入時の領収書や、展示会の案内が挟まっていることもありますので、中身は捨てずに残しておいてください。共箱を包む布や紐も、そのまま残しておいてください。
二重箱になっている場合もあります。内側の桐箱が共箱で、外側は保護のための箱という構成です。外箱が汚れていても、内側を確かめずに捨てないでください。
器の裏を見る
器を裏返し、高台の部分に銘が入っていないか確認してください。作者や窯を示す文字が書かれていることがあります。ここも読めなくて構いませんので、写真を撮っておけば十分です。
ただし、銘がないから作者不明ということにはなりません。共箱があれば、そちらが主たる証拠になるからです。
撮影のコツとしては、真上からの照明を避け、斜めから自然光を当てると文字の陰影が出ます。白い器は光を反射しやすいので、窓際の柔らかい光のほうが写りやすいでしょう。
窯の製品と本人作の違い
ここは誤解が生じやすい部分です。柿右衛門は個人の名前であると同時に、窯としても存在します。窯で制作された製品と、当主本人の手による作品では、評価の水準が異なります。
これは偽物という話ではなく、制作の体制の問題です。所有者が見分けるのは難しいでしょう。箱書きや銘の内容から専門家が判断しますので、そのまま相談してください。
なお、窯の製品だから価値がないという話でもありません。有田で焼かれた質の高い磁器であることに変わりはなく、それを求める買い手も存在します。水準が違うというだけの話だと受け止めてください。窯の製品であっても、共箱や証明書が揃っていれば評価は変わってきます。
扱いで守るべきこと
良かれと思った行為が価値を下げてしまう。和食器はとくにその傾向が強い分野です。
洗わない
査定前に洗うのは避けてください。食器洗い機、漂白剤、研磨剤はすべて厳禁です。赤絵や金彩は釉薬の上に施された層であり、洗剤や研磨で失われます。上絵付は釉薬の内側に守られていないため、想像以上にもろいものです。
埃をかぶっていても、そのままで構いません。せいぜい、乾いた柔らかい布でそっと拭う程度です。査定の現場で最も惜しまれるのが、この「良かれと思った洗浄」なのです。
貫入を傷と考えない
釉薬の表面に細かいひびのような線が入っていることがあります。これは貫入と呼ばれるもので、焼成や経年によって生じる自然な変化です。器の欠陥ではありませんし、味わいとして評価される場合もあります。
貫入に入った汚れを漂白しようとする方がいますが、これはやめてください。取り返しがつかない処置になります。
長く使われた器では、貫入に茶や料理の色が入り込んで景色になっていることもあります。それを汚れと見るか味と見るかは、扱う人の判断に委ねてください。所有者が汚いと思ったものが、そのまま評価されることもあるのです。
修理をしない
欠けを接着剤で留める、市販の補修材を使う。良かれと思ってやったことが、そのまま減点になります。破損があっても、手を加えずそのまま持っていけば大丈夫です。破片が残っているなら、それも一緒に持っていってください。
金継ぎのような専門的な修復についても、査定前に手配する必要はないでしょう。費用をかけた分が評価に反映されるとは限らないからです。民藝の巨匠・濱田庄司の陶磁器はいくらで売れる?査定基準を解説もあわせてご覧ください。
箱に戻して保管する
査定までのあいだは、元の箱に戻しておくのが最も安全です。桐箱は湿度を調整する性質を持ち、器の保管に適した素材として使われてきました。中の緩衝材や布も、当時のまま入れておいてください。
箱がない場合は、柔らかい布で包んで平置きし、重ねずに並べてください。器同士がぶつかれば縁が欠けますし、運搬中の破損はそのまま評価の低下につながります。新聞紙で包む場合は、インクが移らないよう白い紙を一枚挟んでおくとよいでしょう。あわせて、だるま3マガジンの陶磁器の焼成方法とは?還元焼成と酸化焼成の違いを初心者向けに徹底解説にも目を通してみてください。
「読めない箱書きは意味がある?」という疑問
ここまで読んで、読めない墨書きをどう扱えばいいのか迷っている方もいるでしょう。最後に、その疑問に答えておきましょう。
結論から言えば、読めなくても、その箱には決定的な価値があります。むしろ、読めないまま持っていくのが正解です。
理由を三つ挙げておきます。第一に、箱書きは所有者ではなく専門家が読むためのものだといえるでしょう。崩し字を読み解く訓練を受けた人にとっては、署名と印だけで多くの情報が得られます。所有者が読めるかどうかは、判断の材料として必要とされていません。第二に、箱そのものの様式が時代を示すからです。桐の質、蓋の作り、紐の種類。これらも年代を推し量る材料のひとつです。第三に、箱と器の組み合わせが正しいかどうかも判断の対象になるからです。別の器の箱に入れられている例もあるため、両方を揃えて見せる必要があります。箱だけ、器だけを持ち込むと、この照合ができません。
したがって、やるべきことはひとつです。箱を捨てず、器と一緒に、そのまま持っていくこと。
逆に、最も避けたいのは「読めない古い箱だから」と処分してしまうことです。押し入れの整理では、中身のわからない桐箱がまとめて捨てられてしまうことがあります。器だけを取り出して箱を処分する、という順番も同じくらい危険です。かさばる空箱から先に片づけるのは、整理の流れとしては自然なことでしょう。だからこそ、意識して止める必要があります。
多くの店は査定を無料で行っており、数が多ければ出張査定も頼めます。押し入れひとつ分をそのまま見てもらうという依頼の仕方も可能です。何が入っているかわからない箱が並んでいるという状態でも構いません。梱包の手間まで含めて任せられる店もあります。順番としては、確かめるのが先です。この順番だけ守ってください。結果を聞いてから、手放すか残すかを決めれば十分ですし、相談したからといってその場で売らなければならないわけでもありません。
なお、売却益や相続で税金の話が出てきたときは、税理士等の専門家にご相談ください。